血液検査(採血)

ピル処方前の血液検査って必要?

現在のピルの服用前検査のなかでは、血液検査(採血)は必須項目ではありません。

低用量ピルの国内処方が認可され、追跡調査を行った結果、「ピルを飲んだことによる心血管系疾患のリスク」は非常に少ないことが分かってきたからです。

リスクが高まるのは、既に心疾患歴がある、高齢のヘビースモーカー、高血圧、強い偏頭痛持ちなどの特定の条件に、ピルの服用が組み合わさった時に起きていました。

いまでは血液検査を「お決まり」として行うことは推奨されません。まず最初に問診によるヒアリング、次に血圧測定や過去の血液検査の結果をチェックします。

これにより血栓症が疑われた場合のみ、追加で血液凝固異常症の検査、血栓性素因の診断を行う、という流れが推奨されています。

血液検査は旧ガイドラインから改訂された

ピルが認可された当初のガイドラインでは、3種類の血液検査(血液生化学検査血液学的検査血液凝固系検査)は、処方前検査の基本項目に含まれていました。

ピルの普及が進むに連れ、特定の条件によって血栓症が起きやすくなること、欧米人と比べると日本人は血栓症の発症率が低いこと、血栓症を発症した女性のほとんどが血液凝固系検査では異常がなかったことなどから、必須検査から外された経緯があります。

現在のガイドラインでも、患者が希望した場合か、血栓症が疑われた場合のみ、血液検査を行うと改訂されています。

ピルの処方に関連する血液検査

血栓症のリスクを調べる血液学的検査血液生化学検査。血栓症のリスクがあると判断された場合、さらに詳しく調べる血液凝固系検査の内容を詳しくみてみましょう。

血液学的検査

全身の状態を知る血液検査(白血球数、血小板数)

白血球(WBC)にはからだの害になる細菌や毒素を殺したり、病気に対する抵抗力を強める働きがあります。白血球数(WBC)の基準値は、1μl(マイクロリットル)当たり3500~9700です。

血小板は出血した際に血を止める働きがあります。血小板数(PLT、PL)の基準値は、1μl(マイクロリットル)当たり14万~37.9万です。

白血球、血小板ともに値が高い場合は、凝固能が上がります(血小板増多症)。ピルの服用によって血が固まりやすくなるため、血栓症のリスクが高まります。

貧血を調べる検査(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット)

赤血球には酸素をからだのなかに運び、二酸化炭素を運び出す働きをします。赤血球数(RBC)の基準値は、1μl(マイクロリットル)当たり376万~516万です。

ヘモグロビン(Hb)は赤血球に含まれる血色素で、体中に酸素を運びます。働き方も赤血球と似ていますが、値も赤血球と連動しています。基準値は、1dL(デシリットル)当たり11.2~15.2グラムです。

ヘマトクリット(Ht)は、一定量の血液中に赤血球が含まれる割合を検査します。ヘマトクリットも赤血球数と連動しています。基準値は、34.3~45.2%です。

いずれも赤血球数と関連していて、数が少ないと貧血、酸欠をおこします。月経過多や子宮筋腫などが、赤血球減少の原因なることがあります。逆に数が多い、値が高いと多血症といって、血液が濃くなり血管が詰まりやすくなります。血栓症のリスクが高い、血栓症を起しやすいと判定されるため、ピルを服用するためにはさらに詳しい血液凝固系検査を受ける必要があります。

血液生化学検査

  • 肝機能を調べる(GOT、GPT、LDH、ALP、γ-GTP、コリンエステラーゼ、クレアチンキナーゼ、総ビリルビン)
  • 膵臓機能を調べる(血清アミラーゼ)
  • 腎機能を調べる(尿素窒素、クレアチニン、尿酸)
  • 脂質を調べる(総コレステロール、中性脂肪、HDL-コレステロール)
  • 糖質を調べる(血糖、ヘモグロビンA1C、インスリン)

血液学的検査と血液生化学検査は、ピルの服用時に限らず、婦人科検診やブライダル検診、更年期検診などでも行われる項目です。

血液凝固系検査

血栓症のリスクが高いときに行う血栓性素因のチェック(APTT、PT、フィブリノーゲン、SFMC、TAT、FDP、Dダイマー)

低用量ピルの天敵である血栓症のリスクを詳しく調べます。

血液学の専門分野なので詳細は割愛しますが、血栓症の家族歴がある場合に疑われるのが、先天性の血栓性素因です。アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などが疑われます。後天性の血栓性素因で多いのは抗リン脂質抗体症候群(APS)です。

先天性か後天性の血栓素因があると診断された場合は、血栓症などの心血管系の障害が発生しやすくなります。ピルの服用は禁忌、もしくは慎重投与と診断されます。

ピルと血液検査のよくある疑問

Q.ピルを飲んでいると血液検査の数値に異常が出る?

A.ピルを服用している場合、検査結果のなかでも肝臓、血液凝固因子、ホルモン、ミネラルやビタミン、免疫アレルギーなどの血中レベルに変化があらわれます。ピルの服用によって体内のさまざまな成分が変化するためです。
血液検査を行った場合は、ピルの服用を医師に必ず伝えるようにしましょう。

Q.月経血に血の塊があると血栓症になりやすい?

A.月経血に血の塊が混じるのは、血栓症とは直接関係ない過多月経の症状がほとんどです。
原因は血液の状態以上に、子宮の病気(子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症)や体内のホルモンが影響しています。過多月経はピルを飲み続けるうちに改善される症状です。

Q.実際に血栓を心配しなきゃいけないのはどんな人なの?

A.ピルによる血栓やその他の健康トラブルを心配する必要がある女性は、実はそんなに多くありません。問題なのは次にあげる条件に複数該当する場合です。

  1. 血中脂質の異常
  2. 糖尿病
  3. 高血圧
  4. ヘビースモーカー
  5. 加齢(35歳以上)
  6. 肥満
  7. 偏頭痛持ち

1つでは大きな問題にならなくても、複数の条件が組み合わさると、リスクは劇的に倍増すると覚えておきましょう。なかでも喫煙と加齢の組み合わせは、特にリスクを高めます。
ピルの服用に合わせて禁煙を開始することで、様々な健康トラブルを回避できるでしょう。

Q.手持ちの検査結果を持参すれば、ピル処方時の採血は受けなくても平気?

A.クリニックによって対応はまちまちです。既に持っている検査結果を持参することで、その内容を参照してくれるところもあります。逆に「当院独自の基準」などの理由で、未だにピル処方時の採血を必須検査としているクリニックもあります。
事前に電話で確認することをオススメしますが、できるだけ他院の検査結果、婦人科検診の結果、会社の健康診断の結果などは持参するようにしましょう。

Q.ピル採血(血液検査)の費用・料金はいくら?

A.クリニックによって血液検査の費用はまちまちです。
理由は、クリニックごとに設けている血液検査の基準が異なるからです。またクリニックが設ける基準以外にも、患者ごとに何種類の血液検査が必要になるかも異なります。
一般的な費用は、血液学的検査や血液生化学検査なら、費用は1300円から1500円ほど。さらに詳しく調べる血液凝固系検査が3500円ほどかかります。3種類すべての血液検査を行った場合、おおむね5000円前後が目安となります。
クリニックに事前に問い合わせる場合は、最低限かかる検査費用はいくらか、オプションでかかる費用はいくらか、最大でかかる費用はいくらかを確認しておくと安心です。

この記事を書いた際の参考文献